約 2,188,024 件
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/627.html
散る―――(後編) ◆Vj6e1anjAc ◆ ここで今一度思い出してほしい。 ルーテシアのレリックと融合し、本来なら相性の合わない組み合わせで目覚めた聖王ヴィヴィオは、 いくつもの欠陥をその身に抱えた、不完全なレリックウェポンと化していた。 現時点までに発覚していた変化は、2つ。 1つはかつてのゼスト・グランガイツのそれと同じ、身体を蝕む拒絶反応。 1つはレリックの暴走による、一時的な魔力量の向上。 一度に発揮できる魔力の量こそ増えたものの、同時に身体へのダメージさえも助長され、 本人の意識せぬままに、より早いペースで身体にダメージを溜め込んでいくという悪循環である。 しかし――本当に、それだけだろうか? ヴィヴィオの身体に起きた変化は、本当にその2つだけだったのだろうか? 考えてもみてほしい。 ヴィヴィオが何者であるのかを。 聖骸布のDNAから生み出された人造魔導師が、一体何者なのかということを。 ヴィヴィオはかつての聖王のコピーだ。 古代ベルカ技術の直系を受け継いだ、最高のレリックウェポンの素体だ。 身に溜め込んだ戦闘力と魔力は、並の人間を遥かに凌駕している。 そのベルカ最強の生体兵器として生まれた彼女の身体を、凡百の人間と同じ定規で計っていいものなのか? いかにストライカー級騎士とはいえ、突き詰めればただの人間に過ぎないゼストと、全く同一のケースと見なしていいものなのだろうか? 回りくどい言い方はここまでにしよう。 ここからは率直に事実のみを述べることにしよう。 言うなれば聖王ヴィヴィオの身体は、その莫大な魔力を内に溜め込み、コントロールするための器だ。 大量の水を貯水池に留め、必要量のみを放出する、ダムのようなものである。 では、そのダムが壊れたらどうなるか? 水を抑え込めなくなるほどに脆くなったらどうなるか? 拒絶反応の影響で、ボロボロになった肉体が、魔力制御の限界域を突破したら? その先に待つのは、たった1つのシンプルな回答。 それはその身に宿った全魔力の――――――暴発。 肉体の限界を超えた魔力が、器を破り全面放出されることによる、魔力エネルギーの大爆発である。 これまではギリギリ耐えることができた。 今までに蓄積されたダメージでは、ダムを決壊させるまでには、ほんの僅かに至らなかった。 しかしそこへ、とうとう決定打が叩き込まれる。 完全破壊までには至らなかったとはいえ、スバルの放ったディバインバスターが、レリックにダメージを与えたのだ。 衝撃を与えられたレリックは安定性を失い、体内の魔力は大きく掻き乱された。 そんな水流の大きく乱れた状態へ、更に追い討ちをかけるように、 最大出力でディバインバスターを放つべく、ダムのほぼ全ての水門が開け放たれたのである。 そうなれば、どうなるか。 結論は決壊の2文字しかない。 レリックの魔力のみならず、ヴィヴィオ自身の体内に潜在される魔力まで、根こそぎ放出されるのみである。 こうしていくつもの条件が重なったことによって、薄氷の上に成り立っていた聖王の身体は――遂に、限界の瞬間を迎えたのであった。 ◆ 「ぐォッ……!」 その瞬間を、その場にいた誰もが目撃していた。 超巨大魔力スフィアを発射しようとしていたヴィヴィオが、突如としてもがき苦しみ始めたのだ。 両手で自身を抱くように掴み、呻きと共に肌を掻き毟る。 スフィアは緩やかに消滅し、代わりに聖王の身体から、魔力が霧のように漂い始める。 そしてそこに宿された光は、カイゼル・ファルベの虹色だけではない。 不穏な気配を放つ赤色が、その中に混じり始めたのだ。 赤はロストロギア・レリックの色。 それが漏れ出したということは、ヴィヴィオの魔力回路を介することなく、直接レリックから漏れていることに他ならない。 見る者が見れば、容易に危険だと推測できる状況だった。 「う……ゥ、ォオオオオオ……ッ!」 遂に堪え切れなくなったのか、膝をついて崩れ落ちた。 四つん這いの姿勢になったヴィヴィオの身体が、びくびくと小刻みに痙攣を始める。 美貌にはじっとりと脂汗が滲み、サイドポニーの金髪がへばりついた。 地に着いた四肢はがくがくと震え、口からは明らかに危険な量の涎が零れた。 それどころかその中には、薄っすらと血が混ざっているようにさえ見える。 「ゥ、ア……あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」 瞬間。 絶叫した。 叫びが上がった。 これまでの怒りの滲んだ怒号ではない、断末魔さえも思わせる悲痛な叫び。 不意に弓なりに身体を反らし、中腰の姿勢となって放たれた咆哮。 それが破綻の始まりだった。 それが全ての合図となった。 ヴィヴィオの絶叫を皮切りに、霧が間欠泉へと転じる。 濁流のごとき勢いで、赤と虹の光が発せられる。 さながら火山の噴火のように、漆黒の聖王の肢体から、膨大な魔力が放出されたのだ。 轟々と渦巻くそのさまは、さながら小規模な暴風雨。 暴力的なまでの閃光と爆音が、殺人的破壊力を伴ってぶちまけられた。 「何だ、あれは……?」 相川始との予期せぬ再会によって、幾分か頭の冷えたエネルは、その光景を悠長に構えて見つめていた。 不届きにも己と互角の勝負を展開していた小娘が、突然もがき苦しみ始めたのだ。 そして身を起こしたかと思えば、この有り様。 一体何が起きているというのか。 見たところ、体調が悪くなったのは間違いないらしい。 攻めるなら今をおいて他にないのだろうが、はてさて、あの身体から噴き出したエネルギーをどうするか。 これまでの経験則からして、あれは当たったら痛そうだ。 いくら回復手段があるとはいえ、痛みを覚えるのは面倒くさい。 できれば下手に怪我することなく、あれを突破したいのだが――。 「ヴィヴィオ……一体、どうしたの!?」 ディバインバスターを直撃させ、意図せぬうちにこの状況を作ったスバルは、不安げな声でヴィヴィオに呼び掛けていた。 あの状態はまずい。 何が起こったのかはさっぱり分からないが、尋常ではない苦しみ方からして、彼女が生命の危機に瀕していることは分かる。 できることなら助けたい。いいや、助けなければならない。 たとえディバインバスターが効かなかったとしても、一度助けると決めたからには―― 「なっ!?」 そう思った、次の瞬間。 「逃げるぞ!」 不意にカリスに手を掴まれ、そのままぐいと引き寄せられた。 「待ってください! ヴィヴィオを、ヴィヴィオを助けないと……!」 「もう限界だ! このままだと、俺達まで危険に晒されかねない!」 「そんな……!」 始は本能的に察していた。 あれは危険な現象だと。 ヴィヴィオ1人のみならず、自分達周囲の人間にさえ、危険を振り撒きかねない現象であると。 具体的に何が起こるのかは分からない。 ただ漠然と、危険な気配だけは感じ取っていた。 振りかえって見るだけでも分かる。 見えない脅威を振り払わんと、巨大な憑神鎌を振り回し、先端から余剰魔力を光波として放つさまは、明らかに常軌を逸している。 見捨てることで心が痛むのは確かだ。 それでも今は、出会ったばかりの小娘よりも、ギンガの妹の方が大事だった。 彼女だけは絶対に守る。 人の想いの力を教えてくれたスバルを、絶対に死なせはしない。 その一心で彼女の手を引き、得体の知れないカタストロフから、必死に逃げのびようとしていた。 「ゥウッ! グゥァアアアッ!!」 獣のごとき雄叫びを上げ、狂ったように鎌を振るう。 我が身を苛む何物かを、懸命に遠ざけようとするように。 魔力の嵐の中心で、ヴィヴィオは苦痛の真っただ中にあった。 燃え燻る森の火種も、挑みかかって来る敵の姿も、空の満月も見えはしない。 全天360度の光景は、有象無象の区別なく、慈悲なく容赦なく万遍なく、神々しくもおぞましき虹色へと埋め尽くされる。 浮かび上がる紅蓮の影は、手にした憑神鎌の力の顕現だったのか。 レリックより滲み出る赤い魔力が、処刑鎌の待機形態を彷彿させる顔をした、三つ目の死神の姿を浮かび上がらせた。 「グェ、ェ、ェエエエエ……ッ!」 痛い。痛いよ。 身体中が苦しいよ。 何でこんなことになっちゃったんだろう。 どうしてこんなところまで来てしまったんだろう。 仕方がないことだと思っていた。 身体が痛いのも苦しいのも、人を殺そうとするヴィヴィオが悪い子だから、その罰を与えられたんだと思っていた。 でも、本当はこんな苦しい思い、しなくていいのならしたくはなかった。 こんな怖い思いなんて、本当はしたくなかったのに。 「ァ……ァアー、ア……」 ママ。 どこにいるの、なのはママにフェイトママ。 一緒にいてくれると思っていたのに。すぐ傍で見ていてくれると思っていたのに。 もう嫌だよ、ママ。 痛いのも苦しいのも怖いのも、もうこれ以上味わいたくない。 だから助けてよ。 ここまで助けに来てよ、ママ。 なのにママはどこにもいない。 どこにもなのはママを感じられない。 ああ――私、見捨てられちゃったんだ。 あんまりヴィヴィオが悪い子だから、そんな子はもう知らないって、なのはママにも捨てられちゃったんだ。 これで私は、独りぼっち。 生まれた時と同じ、独りぼっち。 誰にも助けられなくて、誰にも愛してもらえない。 ヴィヴィオはもう――独りぼっち。 「……がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 ◆ それはただただ圧倒的で、暴力的で冒涜的な力の発現。 燃え滓となった灰色の木々も。 森林に鎮座したコンクリートのホテルも。 そこに立つ人影達さえも。 全てが区別なく平等に、光の中へと飲まれていく。 地面の絨毯をひっぺ返し、大口開けて酸素を取り込み。 恐怖さえも煽る虹色のドームが、全てを無へと帰していく。 衛星のように駆け巡る赤色の線が、全てを切り裂き消し去っていく。 影さえも飲み込む死の光。 闇を切り裂く七曜の闇。 全てが虹色に支配され、それ以外の何もかもが見えなくなって。 たっぷり10秒間は続いた大爆発は、エリアF-9に現象する一切合財を、余すことなく飲み込んだのであった。 ◆ かつてホテル・アグスタと呼ばれていた、その施設の面影は既にない。 ヴィヴィオの巻き起こした魔力爆発が、これまで健在であった建物に、遂にとどめを刺したからだ。 コンクリートの壁も鉄骨も、情け容赦なく粉砕された。 今その土地にあるものは、焦げた臭いを漂わせる、煤けた瓦礫の山だけだ。 「あの、女ぁぁぁ……!」 そしてその灰色の山の中で、怒りに震える男がいる。 全身をコンクリートに埋めながら、額に青筋を立てる男がいる。 男の名は、神・エネル。 スカイピアの神を自称し、恐怖こそが神であると自論し、恐怖による支配体制を敷き続けた雷の男である。 その男が、生きていた。 あれほどの爆発の中にあっても、驚くほどの軽傷を負うに留まり、こうして生きながらえていた。 決め手となったのは、周囲の自然や建造物から電力を集めた、あの巨大な積乱雲だ。 恐るべきことにこの男は、自らの支配した雷全てを使って、自らに襲いかかる魔力を、完全に相殺しきったのだった。 「最初から最後まで神を愚弄し……おまけにこんな屈辱を味わわせるとは……!」 何だというのだ、この有り様は。 全能の神を自称していた自分が、一体何という体たらくだ。 か弱い少女を狩らんとしたら、あろうことか川に突き落とされ。 神を信じぬ不届き者も、殺したと思っていたのに殺しきれず。 赤いコートの男に返り討ちにされ、訳の分らぬ感情に心を乱され。 男だか女だか分からないような奴に、いいように騙され利用されて。 自らを檻に閉じ込めた紫鎧も、結局自分の手で殺す前に死に。 あの女には見下ろされ技を盗まれ、挙句せっかく溜めた電力も使い切らさせられた。 ひどい有り様だ。 ここに飛ばされたから自分は、まったくもって嘗められっぱなしではないか。 「もう堪忍袋の緒が切れた! この場に生き残った全員、ただの1人として生かしては帰さん!」 許さない。断じて許すわけにはいかない。 これ以上醜態をさらすのは、自分のプライドが許さない。 殺す。 殺してやる。 この場に集った全員を、自分自身の手で殺してやる。 恐怖という名の崇拝を掴み取るために、再び最強の恐怖の象徴として返り咲いてやる。 そうだ。 もう誰も取りこぼしはしない。 「全員私の手で殺して――」 ――ばぁん。 【エネル@小話メドレー 死亡確認】 銃口からたなびく硝煙が、男の顔を静かに撫でる。 脳天を真上からぶち抜かれ、物言わぬ死体となったエネルを、冷淡な視線が見下ろしている。 いつからそこにいたのだろうか。 そこにいつから立っていて、いつから神を見下ろしていたのか。 「怒りってのはよくないな。気が散って危機管理が疎かになる」 スマートな体型を有した青年――金居が、デザートイーグルを構えてそこに立っていた。 四つ巴の激闘から、真っ先に尻尾を巻いて逃げだしたこの男が、エネル達の生死を確かめるために戻って来たのだ。 (ボーナスは……これだな) がさごそとデイパックを漁ってみれば、新たな手ごたえをその手に感じた。 鞄から引き抜かれた御褒美は、長大な柄を持った鉄槌だ。 殴打する部分には痛々しげな刺が連なっており、凶悪な破壊力を醸し出している。 重量こそあるものの、アーカードの持っていた、やたら長い刀よりは使い勝手がいいだろう。 当面はこれを得物としようと判断し、デザートイーグルをデイパックにしまうと、そのまま左手にハンマーを持つ。 ついでにエネルの手から剣をひったくると、本人のデイパックに詰め、それも奪った。 「それにしても、とんでもない被害だな」 そこで思い出したように、高みから周囲を見回し、呟いた。 数分前に起こった大災害には、さしものカテゴリーキングも肝を冷やした。 何せ逃げのびたかと思えば、いきなり目の前で虹色の大爆発が起きたのだ。 あの時真南のG-9ではなく、F-9エリアに留まったままだったら、巻き込まれ消し炭になっていたかもしれない。 これまでの情報を整理すれば、あのカラミティを巻き起こしたのは、間違いなくあのヴィヴィオだろう。 何にせよ、厄介な2人が共倒れになってくれたのは幸いだった。 死んだのか否かはまだ調べていないが、ヴィヴィオも小さな子供の姿になって倒れている。もはや脅威となることはあるまい。 (さて、これからどうするか) ともあれ、これで当面の目的は果たした。 であれば、次の目的はどうすべきか。 エネル達という不安要素が排除され、はやて達とも別れた今、自分がすべきことは何か。 同行者が1人もいなくなったのだから、工場に立ち寄る理由もない。つまり、やることがなくなってしまったのだ。 そこまで考えたところで、ふと、デイパックに入れたきりになっていたアイテムの存在を思い出した。 学校で見つけ、それきり調べる機会のなかったUSBメモリだ。 せっかく1人になったのだから、いい加減こいつの中身を調べてみよう。 とりあえずは市街地に行って、適当なパソコンを調達し、こいつを開いてみることにしよう。 そうと決まれば善は急げだ。 コンクリートの山を滑り降り、倒れ伏す人影のすぐ横を、悠然と歩き去っていく。 乾いた夜風が吹き抜けた。 瞬間、金居の視界の中でちらついたのは、見覚えのある10枚のカード。 「……感謝するよ、お嬢ちゃん」 ふと。 不意に、にやり、と口元を歪め。 すたすたと歩いていた足を止め、首だけを背後へと振り向かせる。 「本当に厄介な奴を始末してくれたことを、さ」 キングの視線の先にあるものは―― 【1日目 真夜中】 【現在地 F-9 ホテル・アグスタ跡】 【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状況】疲労(小)、1時間変身不可(アンデッド)、ゼロ(キング)への警戒 【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s ~おかえり~ 【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、 首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル@オリジナル(4/7)、 アレックスのデイパック(支給品一式、L、ザフィーラ、エネルデイパック(道具①・②・③) 【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、 ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、 レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ 【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1~3)) 【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、ランダム支給品(エネル:0~2) 【思考】 基本:プレシアの殺害。 1.USBメモリの内容を確認するために市街地に戻る。 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。 【備考】 ※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。 ※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。 ※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。 ※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。 ※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。 「う……」 呻き声と共に、目を覚ます。 未だがんがんと痛む頭を振り、ぼやけた瞳を指先で擦る。 ヴィヴィオにやられた鈍痛の残る身体を、片腕でのそのそとと起こした。 あれから一体どうなったのだろう。 いいや、あれだけのことがあって、何故自分は生き残ることができたのだろう。 徐々に冴えてきた脳内で、スバル・ナカジマは思考する。 最後に記憶したものは、聖王の背後で吼える死神の姿と、網膜を蒸発させんばかりの魔力光だ。 前後の状況から推察するに、恐らくはヴィヴィオの身体から発せられた魔力が、とんでもない規模の爆発を引き起こしたのだろう。 あまりの光量と音量に、意識が吹っ飛んだほどの破壊力だ。 まともに考えるのならば、今ここで自分が生きているのはおかしい。 何が死期を遅めたのか。 あの圧倒的な火力の中、一体何が自分を救ったのか。 「……ッ!」 そして。 次の瞬間、見てしまった。 上へと持ち上げた視線に、その存在を捉えてしまった。 自分が倒れている目の前に、異形の怪物の死体が立っていた。 「あ……ああ……!」 見覚えのない、禍々しい背中。 頭部から伸びた触角に、おぞましく歪んだ甲殻から覗く緑色の肌。 全身を煤けさせながらも、倒れることなく逝った立ち往生の死に様。 いかにも怪物らしいこの怪物の背中を、自分はこれまでに見たことがない。 それでも、確かに悟ってしまった。 否応なしにも、理解させられてしまった。 「始、さん……!」 これは相川始だと。 あの素顔も知らない仮面ライダーカリスが、自分をここで庇っていたのだと。 圧倒的な魔力に身を焼かれても、それでも決して引き下がることなく、そしてそのまま最期を迎えたのだと。 不意に、死体が光る。 おぞましい昆虫の亡骸が光に包まれ、縮小し、一枚の紙切れへと変わった。 トランプのようなカードの意匠は、生前彼が使っていたのと同じものか。 それで本当に何もかもが終わってしまったのだと、何となく理解していた自分がいた。 また、目の前で人が死んだ。 死なせないと誓った人を、結局救えず死なせてしまった。 皆を守ると約束したのに、結局守られてしまった。 その厳然とした事実はスバルを苛み、涙腺に熱いものを込み上げさせる。 きりきりと胸を締め上げる悔しさと情けなさが、瞳から涙を落とさせようとする。 「………」 それでも。 だとしても、泣くことはしなかった。 静かに身体を起き上がらせ、視線を左側へと逸らす。 始の死体の向こう側にいたのは、焼け焦げた大地の中心で倒れ伏す、元の小さな姿のヴィヴィオだ。 すぐ近くに突き刺さっていたナイフは、始を殺したことで手にしたボーナス支給品だろうか。 無言で立ち上がり、歩み寄る。未だ真新しいナイフを回収し、気絶した少女の身体を抱き上げる。 ひゅーひゅーと響く呼吸音は驚くほど小さく、心臓の鼓動はあまりにもか細い。 誰の目にも明らかな、満身創痍の有り様だった。 「……あたし、泣きませんから」 ぼそり、と。 消え入るような声で、呟いた。 そうだ。こんな所で泣いている暇はない。 こうして立ち止まっているうちにも、目の前の命はどんどん蝕まれていく。 今ここで涙し膝をつけば、せっかくレリックの呪縛から解き放たれたヴィヴィオの命が消えてしまう。 「ヴィヴィオを死なせないためにも、前を向いて歩きますから」 振り返ることはしなかった。 始の遺したカードを拾い上げると同時に、すっぱりと思考を切り替えた。 落ちていたデイパックを自分のバッグへと詰め、ジェットエッジのローラーを回転させ、北へ北へと進んでいく。 今は涙を流せない。 始の死を悲しんでやることも、弔ってやることさえもできない。 今目の前で死にかけているヴィヴィオを、スカリエッティのアジトへと運び、その命を救うこと――それがスバルの使命なのだから。 「だから、もう行きます」 白のバリアジャケットがはためく。緑の瞳が光り輝く。 胸にこみ上げる悲しみよりも、なおも大きな決意を抱いて、満月の下を進んでいく。 「ありがとうございました――始さん」 それが相川始との、最期の別れの言葉だった。 【1日目 真夜中】 【現在地 F-9 ホテル・アグスタ跡】 【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意 【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、ラウズカード(ジョーカー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー) 【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【道具③】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ 【思考】 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。 1.ヴィヴィオを連れてスカリエッティのアジトへ向かう。 2.六課のメンバーとの合流。つかさとかがみの事はこなたに任せる。 3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。 4.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。 5.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。 6.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……? 【備考】 ※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。 ※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。 ※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。 ※アンジールが味方かどうか判断しかねています。 ※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。 ※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。 ※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。 【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大)、肉体内部にダメージ(極大)、血塗れ 【装備】フェルの衣装 【道具】なし 【思考】 基本:????? 1.ママ…… 【備考】 ※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。 ※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。 ※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。 ※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。 ※暴走の影響により、体内の全魔力がリンカーコアごと消失しました。自力のみで魔法を使うことは二度とできません。 ※レリックの消滅に伴い、コンシデレーションコンソールの効果も消滅しました。 時は僅かにさかのぼる。 これはヴィヴィオの魔力が暴発した、その瞬間の出来事である。 悪い予感は的中した。 否、正直予感以上だった。 これほどの規模の大爆発は、これまでのバトルファイトを振りかえっても一度も目撃したことがない。 腕に抱き止めたギンガの妹は、あまりの音と光に気絶してしまった。 人間の開発したスタングレネートやらを、遥かに凌駕する音と光だ――正直自分自身さえも、未だ意識を保っているのが不思議だった。 爆発が背後にまで迫る。 目と鼻の先にまで光がにじり寄る。 このまま飲み込まれてしまえば、それで何もかも終わりだ。 身体はあっという間に蒸発し、骨まで残さず消え果てるだろう。 自分はどうなろうと構わない。だが、それ以上に死なせたくないのはスバルだ。 昏倒した少女を背後へと放ると、迫り来るカラミティへと正対する。 『REFLECT』 カリスアローにラウズしたのは、ハートの8番目のカード――リフレクトモス。 ギラファアンデッドの攻撃にも耐えられなかった防壁が、どこまで有効かは分からない。 それでも手にしたラウズカードの中で、最もましな防御力を持っていたのがこれだ。 すぐさま光の壁が出現し、カリスの盾となって立ちふさがる。 爆発と正面から衝突したのは、ちょうどそれから2秒後だ。 すぐさま、強烈な反発が襲いかかった。 ばちばちと耳触りなスパークが響き渡り、衝撃が大気越しに身体を震わす。 ハートのマスクの下の眉間を、苦悶を宿した皺に歪めた。 見ればリフレクトの障壁には、既に亀裂が走っている。恐らくはあと数秒と保たずに、この壁は消滅するだろう。 「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」 それでも、諦めてなるものか。 膝をついてなるものか。 全身から暗黒色の飛沫を放ち、本来の姿たるジョーカーへと変幻。 黒と赤の鎧が消失し、黒と緑の甲殻が姿を現す。 リフレクトがばりんと音を立て砕け散ったのは、ちょうどこの瞬間だった。 「くっ、お、おおおおおお……っ!」 轟――と身を襲うのは、耐えがたいほどの灼熱と圧力。 カリスの姿なら即死していたであろう殺人的破壊力に、無敵のジョーカーの体躯すら、じりじりと焦がされていく。 命が遠ざかっていくのを感じた。 不死身であるはずのこの命が、驚くほど静かに消えていくのを感じた。 このままでは遠からず自分は死ぬだろう。 たとえスバルの盾となり、彼女を守り通したとしても、その未来に自分の命はないのだろう。 ふ――と。 不思議と、笑みが込み上げた。 まったくもって、不思議なこともあるものだ。 殺戮のために生まれたジョーカーの最期の仕事が、命を守ることだとは。 魔力の炎に焼き尽くされながら、しかし不思議と穏やかな気分で、自分の奇妙な運命を見据える。 少し前まではこんなこと、考えたことすらもなかった。 そんな自分を変えたのは、愛すべき人間達の心だ。 スバルが懸命に説得してくれたからこそ、人の想いの強さを知ることができた。 ギンガに命を救われたからこそ、人の想いに触れることができた。 そして、最初に人の心を教えてくれたのは、あの栗原遥香と天音の親子だ。 すいません、遥香さん。ごめん、天音ちゃん。 俺はどうやらここまでらしい。ここから生きて帰ることはできないようだ。 そして、それでも。 だとしても、これでよかったと思える自分がいる。 自分の命の捨て方としては、十分に満足できる死に様だと思っている自分がいる。 人を殺す運命にあった自分が、人を守って死ねるのだ。こんなに上等な死に方はなかった。 これで、いいんだよな。 今は亡き少女が最期に見せた、穏やかな笑顔へと問いかける。 俺はしっかり生き抜いたよな。 お前が言ってくれた通り、人間の心に従って、真っ当に死ぬことができたんだよな。 そうだよな……ギンガ―――――― 【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード 死亡確認】 【全体の備考】 ※F-9にて大規模な火災と魔力爆発が発生し、以下の被害が生じました。 ・F-9が壊滅状態となりました ・ホテル・アグスタがほとんど全壊状態となりました。 ・装甲車@アンリミテッド・エンドラインが大破しました。 ・ヴィヴィオの支給品一式が消滅しました。 また、火災は魔力爆発によって鎮火しています。 ※F-9に落ちていたラウズカード(ハートのA~10)@魔法少女リリカルなのは マスカレードが、風に吹かれて飛ばされました。 どこに飛んでいったのかは、後続の書き手さんにお任せします。 【ラウズカード(ジョーカー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 不死の怪物「アンデット」のうち、4つのどのスーツにも属さない「ジョーカー」を封印したカード。ラウザーに通す事により、カードが持つ能力を使用者や武器に付加させる事が出来る。 あらゆるラウズカードの能力を有しており、使用者が望むカードの代用として使用することができる。 【バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s ~おかえり~】 金居に支給されたボーナス支給品。 未確認生命体第45号ことゴ・バベル・ダの使用する大金槌。 高い殺傷能力を有しており、バベルの怪力と相まって、紫のクウガの鎧に傷をつけるほどの威力を発揮した。 【黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK】 ヴィヴィオに支給されたボーナス支給品 「組織」に所属する契約者・黒(ヘイ)が使用するナイフ。 Back 散る―――(中編) 時系列順で読む Next A to J/運命のラウズカード 投下順で読む Next A to J/運命のラウズカード スバル・ナカジマ Next A to J/運命のラウズカード 相川始 GAME OVER ヴィヴィオ Next A to J/運命のラウズカード 金居 Next Ooze Garden(軟泥の庭) エネル GAME OVER
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/248.html
見学も進んでいった頃、はやてが 「ほな、ちょっと派手なもんでも見にいこか」 と、いきなり出てきた。 案内されたのは時空管理局自慢の訓練スペース。 ライトニング、スターズの新人フォワード達が様々なパターンで対ガジェット戦術の訓練をしている。 エリオが最後の一つを貫いて破壊。 指導するなのはとフェイト、それに観測のシャリオ達の所に戻ってくる。 「みんなお疲れ」 「よくなったね。新記録だよ」 「やったぁ」 スバル達は飛び上がって喜ぶ。 「ふっ」 わざとらしく鼻で笑う音が聞こえてきた。 あからさまにあざけるが含まれている。 「まだまだだな」 「なによ」 一転して機嫌の悪くなったティアナがグゥを見下ろした。 「あの程度で手こずっているようでは」 「ならなに?あなたなら、もっとできるって言うの?」 「まあな」 傍目から見ても険悪な二人の間にはやてが割ってきた。 「まぁ、まぁ二人とも。じゃ、グゥちゃんやってみるんか?」 「望みとあらばな」 「部隊長、いいんですか?」 と言いながらもシャリオは設定をはじめている。 「かまわんよ。さ、やってみよか」 「じゃ、はじめますね」 シャリオがキーを押すと遠近に無数のがジェットがあらわられた。 「あたし達がさっきクリアしたのと同じね。見せてもらいましょう」 ティアナが腕組みをして、グゥの後ろに立っている。 「じゃ、スタート」 グゥが服の中からなにかを取りだした。 ぶんぶん振り回していてなにかはよくわからない。 「ここんとーざい」 「オッケー。ボス」 びしっと止める。 グゥの周りに無数の光球ができて飛んでいく。 それは、見えるがジェットはもちろん隠れて視認できないガジェットまで全てAMFをものともせずに破壊していった。 「すごい・・・最高スコアです」 つぶやきながら映像を再生するシャリオ。 「なぁなぁ、ここんとこよーみせて」 食い入るように映像を検証するはやて。 「ま、まけたわ・・・」 がっくりと膝をつくティアナ。 ハレはグゥの成果に驚いてはいなかった。 グゥの振り回していたものを凝視していた。 ピタリと止められたそれは今ははっきりとその姿がわかった。 それはビシッと背広を着込んだ筋肉質で禿頭でひげ面の大男だった。 「おい、それいったい何なんだよ」 「ボッチャン、ワスレタンカ?ぼくヤ。ボディーガードノクインシー・ポーター(以下QP )ヤガナ」 「いや、そういう事じゃなくて・・・今日もステッキのバイト?」 「チャウネン」 「じゃあ・・・」 「キョウハ、インテリジェンスデバイスのバイトヤネン」 「インテリジェンスデバイス・・・どこが?」 グゥが口をはさんだ。 「喋る」 「喋ればいいってもんじゃないわぁあああっ」 向こうでは、はやてとシャリオが顔をつきあわせている。 「完全自立型のインテリジェンスデバイス。めずらしいですね」 「せやな。あんなに大きいのは初めて見た」 「いや、他に言うことがあるだろ」 QPはなのはの見ていた。 「ボッチャン、チョットシツレイスルワ」 大きな体を揺らしてなのはの前に行く。 「あのぅ・・・」 自分をじっと見下ろすQPにおずおずと声をかける。 「オヒサシブリデス」 「あの、なのはさん。お知り合い?」 なのはは横で結んでいる髪が遠心力で水平になるほどに勢いよく首を横に振って答える。 「レイジングハートハン」 「そっちかよ!!だいたいクインシーとレイジングハートにどんなつながりがあるんだよ」 「レイジングハートハンハ、ぼくノ指導教官ナンヤ」 「は?」 「アレハナ・・・・・」 回想シーン 大勢のデバイス達が並んでいる。 その中にはマッハキャリバー、クロスミラージュ、ストラーダ、ケリュケイオンやクインシー・ポーターもいる。 彼らの前を歩き、レイジングハートは声を張り上げていた。 「わたしが訓練教官のレイジングハートである!話しかけられたとき以外は音声を発するな!ノイズをたれる前と後に“サー”と言え 分かったか、石ころども!」 「Sir,Yes Sir」 過酷な訓練がはじまる。 デバイス達は泥まみれになり、傷を作り、無様に倒れていく。 「貴様ら真空管どもが俺の訓練に生き残れたら、各人がデバイスとなる!その日までは漬け物石だ!次元世界で最下等のケイ素だ!」 「貴様らはデバイスではない!哺乳類の糞をかき集めた値打ちしかない!」 「俺は厳しいが公平だ!差別は許さん!尿酸結石、シスチン結石、リン酸結石を、俺は見下さん!すべて・・・平等に価値がない!」 「俺の使命は役立たずを排除することだ!愛する次元管理局の石綿を!」 「分かったか、コプライト!」 「Sir,Yes Sir」 回想シーン終わり 「ト、イウワケナンヤ」 「なぁんだそりゃぁああああ」 「レイジングハートが私の知らないところで私の知らないことを・・・・・」 ハレの横で頭を抱えるなのはの肩が叩かれた。 なのはが振り向くとはやてが満面の笑みでそこにいた。 「なのはちゃん、お手柄や」 「え?」 「グゥちゃんや。すごい逸材や。うちに来てくれたら、戦力に厚みが出ること間違い無しや」 「え・・・えーーーと」 フェイトもやってくる。 「うん、私もそう思う。私、昔のなのは思い出したし」 「ええ?私あんなふうだったの?」 「うんうん、あの砲撃。その通りや」 なのははガマのように冷や汗をたらし、ハレの両肩をがしっとつかむ。 「ハレ君!」 「はい」 「ハレ君もうちに来て!」 「いや、俺普通の人だし・・・」 「来て欲しいの!」 「魔法使えないし・・・」 「私を見捨てないで!!私1人じゃ、グゥちゃんのこと絶対無理!」 「俺の存在意義って、グゥ関連だけですか!!!」 その後、はやて説得に全力を尽くすと言うことでとりあえず落ち着いたがハレはしばらく落ち込んでいた。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2162.html
第1話「それは不思議な出会い!急げ!百鬼魔界へ」 (誰か……助けて……誰か……。) ある企業グループの私有地とされる山中、人の通わぬ森の奥で一匹の小動物が血を流し倒れていた。 (お願いです……この声を聞いた人がいたら……) もはや満足に体を動かすこともできないそのフェレットは、一縷の望みを掛けて 念話によるSOSを発信していた。 念話、すなわち魔法を使える者だけが聞き取れる手段で。 魔法の存在が確認されていないこの管理外世界『地球』で。 それがどれほど期待のできないことかは本人にも分かっていた。 管理外のこの世界の、それも彼のすぐ近くに魔導師が偶然いて、 幸運にもその人物がジュエルシードによって凶暴化した獣を撃退できるほどの実力で、 そして私利私欲のためにジュエルシードを欲しようとしない高潔な人物である、 などという都合のいい現実があるわけがない。 それでもそのフェレット、ユーノ・スクライアという名の年若い魔導師は あり得ない可能性にすがるしかなかった。 数分もすればあの獣がユーノに追いついて、彼の体を引き裂くのだから。 (お願い……誰か……) このまま誰にも気付かれず、人知れず朽ち果てていくのだろうか、 ユーノがそう絶望した時だった。救いの主が現れたのは。 「いかん。このフェレット怪我をしてるじゃないか」 優しそうな男性の声が聞こえる。しかし――――― (良かった、気付いてくれた人………が…………) 自分を見下ろす人影を見た瞬間ユーノの思考は完全に停止した。 (な、な、なななな、なんだコレエエエェェェェェ!?) それは人ではなかった。 頭部は戦車の砲塔にしか見えない形状、足にはキャタピラを装備、全身を覆う分厚い装甲板と 右手の銃器は、その体が戦闘の、あるいは戦争のために生み出されたことを容易に想像させる。 傀儡兵の類かと考えたが、流暢に喋る傀儡兵などユーノは知らない。 「早く手当をしてやらないと…」 凶悪な外見と不釣り合いに優しい態度を見せる救世主。 ネロス帝国機甲軍団烈闘士ブルチェックだ。 なお、ユーノの念話が聞こえたわけでは決してない。演習後にたまたま通りがかっただけである。 (あの…もしもし!?僕の声聞こえてますか!) 「待っていろ、ゴーストバンクの設備ならすぐに治るからな」 (うわ!ちょっと、そんなゴツイ指で掴まないで!) ブルチェックの無骨な指先は牛の乳を搾れるほど繊細に動くのだが、そんなこと露ほども知らない ユーノにとって殺人兵器とおぼしき物体に掴まれるのは恐怖でしかなかった。 (ど、どうなるんだ僕は…!) 鈍重そうな姿と裏腹に猛烈な勢いで駆けるブルチェックの手の中で、 抵抗する力もないユーノは絶望的な気分になっていた。 が、程なくしてブルチェックはその歩みを止める。 『グルルルル……』 体長2メートルほどの巨獣。四つの目と二本の角を持ち、黒褐色をした四つ足の生物が道を塞いだからだ。 「な、何だこの生物は!」 (えーと、それはジュエルシードという…) 「怪我をしてる動物がいるんだ!邪魔をするなあっ!」 有無を言わさず頭部の大砲が火を噴く。 ネロス帝国には珍しく動物の命を奪うことを良しとしないブルチェックであるが、 『かわいい動物』の範疇に入らない相手には容赦がない。例えばヘドグロスとか。 不意打ち気味の攻撃は狙い違わず怪物の胴体を直撃する。 そしてユーノは、自分の念話が全く通じてないことを喜ぶべきか悲しむべきか分からなかった。 『グギュウウアアァァァ!!』 「こいつ、まだ立つか!だったら!!」 至近距離からの砲撃を食らい吹き飛んだ獣は、おぞましい叫びをあげながらなおも戦闘態勢をとろうとする。 そこに飛来する第二第三の砲撃。さらには右手の銃もうなりをあげる。 『ギョオォォアアアア!!!』 「これでどうだ!」 六発目を食らったところでついに力尽きたのか、怪物はピクリとも動かなくなった。 「おそろしくタフだったな。モンスター軍団の失敗作か?……ん、何だこれは!」 動かなくなった獣はブルチェックの目の前でするすると縮んでいく。 数十秒後、砲撃によってえぐられたクレーターの中心には、一匹の傷ついた犬と 青く輝く結晶体が転がるだけであった。 「お、俺としたことが犬を殺してしまっただと!? ……いや、まだ生きている!可愛い動物たちを、俺の前で死なせたりはせんぞ!絶対に救ってみせる!」 叫ぶが早いがブルチェックは右腕で犬を抱えて駆け出す。妖しげな結晶体を回収することも忘れていない。 一方左手で掴まれているユーノは現実逃避に忙しかった。 (ま、魔法を使ってないのに、力ずくでジュエルシードを回収しちゃった……) 確かに理論上は可能かもしれない。しかし一度発動したジュエルシードを融合した生物から 物理的に引き剥がすには常識を遥かに越えたパワーが必要なはずだ。 (こんなこと……あるわけがない……) 痛みと疲労の上に精神的なショックが重なり、そろそろユーノも限界が近い。 自分を掴む戦車のような怪物がなんなのか、それを考える余力もなかった。 ユーノ・スクライアは後に語る。 この時念話でなく直接話しかけていたらどうなっていたか、その末路は想像もしたくない、と。 ネロス帝国。 世紀末の悪の帝王ゴッドネロスのもとに組織された恐るべき帝国である。 その目的は経済による世界の支配であり、表の姿である桐原コンツェルンの利益を生むためにはどんな 恐ろしいことにも手を染める。競合他社への直接的間接的問わない攻撃や、石油プラントの破壊による 原油価格の高騰での荒稼ぎ、また時に一国の歴史すら変えてしまうこともあるという。 その本拠地であるゴーストバンクは桐原コンツェルン本社地下にあり、桐原コンツェルンの社長である 桐原剛三は真の姿である帝王ゴッドネロスへと姿を変えて謁見の間に降臨するのだ。 ゴーストバンクには帝王が作り上げた恐るべき4つの軍団が控えている。 まずヨロイ軍団。銀の甲冑に身を包んだ剣士クールギンを長とする軍団で、ヨロイや強化服を身につけた 人間もしくはサイボーグで構成される。正々堂々とした戦いを好み、皆が皆武人たらんとする強者揃いの 軍団である。 次に戦闘ロボット軍団。戦闘に特化し、高い戦闘力を持ったロボット達で構成される。軍団長である バルスキーは男気あふれる性格で、部下からの信望も篤い。 そしてモンスター軍団。バイオテクノロジーで作られたミュータントや合成生物で構成される。 「口八丁手八丁、卑怯未練恥知らず」「食うて寝て果報を待つ」といった4軍団の中では異色の モットーを持つ集団で、軍団長のゲルドリングをはじめとしてどんな汚い手段を使ってでも勝つことを 美徳としている。透明化、液状化、夢を見せるなど特異な能力を持つ者も多い。 最後に機甲軍団。戦車、ミサイル、ヘリコプターなど実在の兵器をモチーフとしたロボットで構成される 火力と装甲に優れた軍団である。「数と機動性」という特色も持ち、他の軍団とは異なり同型機が 複数生産されている。また4軍団の中で唯一航空戦力を持っており、その価値は帝王ゴッドネロスも 認めている。戦艦を模した姿の軍団長ドランガーはあまりゴーストバンクを離れず、副官のメガドロンが 現場指揮を行うことも多い。 各々の軍団には厳密な階級が存在し、軍団長である凱聖をトップとして豪将、暴魂、雄闘、爆闘士、激闘士、 烈闘士、強闘士、中闘士、最下級である軽闘士へと続く。また修理ロボ、音楽ロボのような非戦闘員は 軽闘士よりも更に下に位置する。 「ネロス!ネロス!ネロス!ネロス!」 ゴーストバンク謁見の間に戦士達の叫びが唱和する。帝王が降臨する際は各軍団勢揃いで迎えるのが慣例と なっていた。 整列した4軍団の前で、玉座に人影が浮かび上がる。 醜悪な老人の姿。その内に湛えられた知性と野望。たった1人で、1代でこの帝国を作り上げた男、 帝王ゴッドネロスその人である。 「余は神、全宇宙の神ゴッドネロス!」 「ネロス!!ネロス!!ネロス!!ネロス!!」 ヒートアップする一同。それを手で遮り静かにさせた帝王はおごそかに言葉を紡ぎだした。 「各軍団、現在の状況を報告せよ」 「豪将ビックウェイン、中東において我が帝国に仇なす政権を抹消しました」 「雄闘トップガンダー、こそこそと嗅ぎ回っていたFBI捜査官の暗殺を完了」 「ヨロイ軍団一同、鍛錬は怠っておりません」 「激闘士ストローブ、3機によるフォーメーションは完成に近づきつつあります」 「試験中のデスターX0ですが射撃精度にまだ問題が残るようです」 満足げに報告を聞く帝王。自分も報告をしようと声を上げかけたブルチェックであったが――――― 「帝お……」 「帝王!ワシはブルチェックに問い正したいことがあるんですがよろしいでっか?」 モンスター軍団長ゲルドリングに出鼻をくじかれた。 「何事だゲルドリング………まあかまわん、許可する」 「ありがとうございます帝王……おうブルチェック、帝王の前や。さっきのアレ、どういうことなんか ちゃあんと説明してくれや」 モンスター軍団長凱聖ゲルドリングの、嫌らしさに満ちた声が謁見の間に響く。 頭部を覆う透明なカプセルの中に見えるにやにやとした笑みが、ブルチェックの不安をかき立てていた。。 それは少し時間を遡ってのことだ。2匹の動物をゴーストバンクに連れ込んだブルチェックだが、 当然ながら機械兵器であるところの機甲軍団には生物の怪我を治すような設備はない。 そこで彼が乗り込んだのはモンスター軍団が怪我を癒すバイオ室だった。 何の価値もない薄汚れた動物を、しかも部外者である機甲軍団員が持ち込んだというのだから モンスター軍団の反発は大きかった。しかし意外なことにバイオ室から軍団員達を退かせたのは ゲルドリングである。 死にかけた動物を前に気が急いているブルチェックは、それがどれほどおかしなことか気付いていなかった。 「機甲軍団の烈闘士ともあろう男が、その辺の動物捕まえてきて無断でゴーストバンクの設備を使用! こりゃあ重罪やで」 「なっ!?邪魔をするモンスター軍団員をあの部屋から追い払ったのはあんただろう!」 「ワシは用事があったから軍団員を集めただけや、使っていいなんて一言も言うとらんで。 あれやな、家主の留守にバイオ室を使うとは、機甲軍団ちゅうんはずいぶんと手癖が悪いんやなあ。 おいドランガー、お前んとこは部下の教育もちゃんとやっとらんのかい」 部下の失態を責められた軍団長ドランガーは、苛立ちを隠せぬ様子で詰問する。 「ブルチェックよ、これは一体どういうことだ?」 「も、申し訳ありません軍団長!」 ブルチェックは自分の愚かさに今更ながら気付いた。 あの自他共に認める嫌な性格のモンスター軍団長が、死にかけた動物に情けを 掛けるような真似をするはずがなかったのだ。 あの男の目的は最初から、『帝王の御前で』『規律違反を咎め』『機甲軍団の地位を貶める』 この点にあったのだろう。 (俺は大馬鹿者だ!動物たちの命を救うことに気を取られて、こんな事にも気付かないとは!) しかしブルチェックにも勝算はある。 ここまで露骨にゲルドリングにはめられるとは思っていなかったが、 要はあの動物たちに命を救うだけの価値があることを示せばいいのだ。 その証拠はブルチェック自身の中にある。 「ブルチェックよ、申し開きはあるか」 帝王の重々しい声が響く。機械の体であっても震えを感じずにはいられない、力と威厳に満ちた声。 その声の主は今、彼を咎めようとしている。 まともな規律がないに等しいモンスター軍団や軍団長の裁量が大きい戦闘ロボット軍団と異なり、 機甲軍団は規律を重視する。軍規違反により軍法会議の上銃殺刑、となる可能性は高い。 (ここでしくじっては命がない。オレも、あの動物たちも) 故にブルチェックは一歩前に進み出て、帝王の放つプレッシャーの中に自ら飛び込んでいった。 「恐れながら帝王に申し上げます。 あの動物は高い戦闘力を持った生物兵器の可能性があるため確保しました。 念のためゴーストバンクのデータベースをチェックしましたが、あの動物に該当する個体は モンスター軍団に存在しません。 おそらくはネロス帝国以外の技術で作られたものと考えられます」 「はあ~?生物兵器~?」 ゲルドリングの不審げな声が背後から聞こえる。先ほどまでの芝居がかったしゃべりと 声色が違うのは、本心から疑問を持っているからだろうか。 沈黙を保ったままの帝王の心中は読めないが、制止されない以上続けてもいいのだろう。 「アホ言うな。あれは完璧にタダの動物やった。ワシが直々に調べたんやからな」 他人の粗探しには熱心なこの男のことだ。ブルチェックがゴーストバンクに帰還してから 帝王が降臨されるまでのさして長くもない時間の間に、何かしらの落ち度がないか目を皿のようにして 探したに違いない。 ……などと周囲にいる者達は考えていたのだが、実際にモニタールームで目を皿のように『させられて』 いたのは下位のモンスター軍団員だったことを追記しておくべきだろう。 「ゲルドリング、それは真か?」 「ええ、帝王。そりゃあもう隅から隅まできっちり調べましたからな、間違いないですわ。 犬もイタチも何の変哲もない弱ったケダモノ。あれじゃあ実験材料にもなりませんで」 「そんな馬鹿な!ちゃんと調べたのか!」 「調べたわい!お前こそあれが生物兵器いうんやったらその証拠見せんかい!あるんやったら、やけどな」 「もちろんある!」 「何やて?」 そう、証拠はある。これ以上ない形で。 「帝王、私の交戦記録をご覧下さい」 ブルチェックはモニターと自分をケーブルで接続しながらそう言ったのだった。 戦闘ロボット軍団員と機甲軍団員が見聞きした物は、彼らの『記憶』であると同時にゴーストバンクのデータ バンクに収集される『記録』でもある。自ら改竄することが不可能なそれは、物証としては十分な物と言えよ う。 (それにしても因果な物だ) 怪我をした哀れな動物たちを救うためには、あの犬を危険な生物兵器として認知させねばならない。 奇怪な生物が砲撃になぎ倒される映像を映しながら、 ブルチェックは自らの行動の矛盾が回路にかける負荷を増大させているのを感じていた。 「おお、これは……」 「あの至近距離でブルチェックの主砲を受けて粉みじんにならない生物だと?」 「あれだけ食らえばオレ達だって危ないな」 「あの質量の変化、有り得んな…一体どうなっている」 「モンスター軍団の新兵器ではないのか?」 「アホ言え、あんなもん知らんわ」 「静まれい!」 にわかにざわついた室内だが、響き渡る帝王の一喝にその場にいた全員が口を閉じた。 「ブルチェック、報告を続けよ」 「はい帝王。今ご覧になられたようにあの生物は戦闘能力を失うと同時に小さくなり、 無害な動物となりました。そして現場に残されていたのが……」 言いながら青い結晶体を恭しく帝王に差し出す。 「この物質です」 「ふむ……」 帝王が手をかざすと、手のひらから放射された不思議な光が結晶体を包み込み、 ふわりと浮き上がったそれが帝王の掌中へと運ばれる。 「ほお……すさまじい魔力を感じるな」 「魔力……?人間の言う魔術とか魔法とかいうやつですか?」 帝王の言葉にバルスキーは疑問の声を投げかける。 純粋に科学で作られた彼らロボットにとって、超自然的な現象は理解の外にある。 今、帝王が見せたような力も何かの装置を使っている物とばかり考えていたのだ。 「帝王は偉大な科学者であらせられるが、妖術においても造詣が深い」 そのバルスキーの疑問に答えたのはクールギンだった。 おそらくはネロス帝国で最も帝王ゴッドネロスとの関わりの深いこのヨロイ軍団長は、 時折他の凱聖すら知り得ぬ情報を持っている。 「妖術を?なんと、さすがは帝王。……もしやヨロイ軍団にもそういった力を持つ者がいるのか?」 「いや、我々には帝王ほどのお力はない。護摩を焚き加持祈祷をするのが精一杯だ」 「そうなのか」 ヨロイ軍団は強化された人間やサイボ-グで構成されている。帝王同様に生身の肉体を持つ彼らの中には 魔力を持つ者がいるかもしれない、バルスキーはそう考えたのだが彼の予想した以上に魔力を持つ者は 稀少らしい。 (やはり帝王は全てにおいて別格ということか) そう結論づけたバルスキーは、意識を切り替えて帝王の次の発言を待つことにする。 不気味な明滅を続ける結晶体を掌の中でもてあそびながら、帝王は何かを思案している様子だった。 と、唐突に結晶体が強い光を放ち出す。 「帝王!」 「慌てるでない!」 注視する一同の前で結晶体は再びふわりと浮き上がる。帝王の手から放れると閃光は弱まり、 帝王に何かあっては一大事と焦っていた幹部達も落ち着きを取り戻した。 「い、今のは一体……」 「こやつ我が欲望を喰らわんとしおったわ。余でなければこの力に飲み込まれていたであったろうな」 「帝王!お体は大丈夫なのですか!?」 「侮るなクールギン、余は神、ゴッドネロスであるぞ?しかしこの強大な力、未知なる魔法の産物…… ふふふ……久々に探求心がたぎってきたわ。この力、必ずや我が帝国の糧となるであろう。 でかしたぞブルチェック」 「帝王にお褒めいただき光栄至極に存じます!」 乗り切った!ブルチェックは心の中でガッツポーズをする。 一方モンスター軍団員は上から下まで全員が唖然としていた。 「さてブルチェックよ、余はお前の働きに対し褒美をやろうと思う。何が望みだ?」 「……それでは帝王、私の回収してきた動物たち、彼らを山に帰してやってください。 すでにモンスター軍団の調査でただの動物だったと判明しているのですから、 逃がしても構わないはずです」 「ふむ…」 思案しながら、掌の上でふわふわと浮かぶ結晶体とブルチェックを交互に見やる帝王。 「まあよかろう。所詮は動物、ゴーストバンクの情報を外に漏らすようなことはできまい。 あの動物はお前の好きにするがいい」 「ありがとうございます帝王!」 「ちょ、ちょっと待ってください帝王!犬はともかくイタチは関係ないでっせ。いや、そもそも最初っから その結晶だけ持って帰ればよかったんとちゃいますか!」 「うう!そ、それは…」 ゲルドリングに突っ込まれたのは最も痛い点だ。百歩譲って犬の方はまだ調査する理由があるが、 フェレットにはそれがない。ブルチェックは全身から一気に冷や汗が吹き出すような感覚を味わっていた。 「今回は功績に免じて特別に許そう。だがブルチェック、次はないぞ?」 「は、ははー!」 再度訪れた危機をどうにか乗り越えたブルチェックは、これからは生物用の医療キットも携行しよう、 と心に誓うのであった。 「さて次なる任務だが……ストローブ、バーベリィ、これへ」 「ハッ!」 戦闘機とヘリコプターの機能を有する機甲軍団員が一歩前に出て気を付けの姿勢をとる。 「お前達は近隣一帯を空から調査し、この結晶体と同じ物を探すのだ。これ以外にも存在するやもしれん。 そして先ほどの犬のような高い戦闘能力を持った生物がいた場合これを撃破、結晶体を回収せよ。 ドランガー。この任、機甲軍団に命ずる」 「帝王のご命のままに!」 「ではこれにて解散。各軍団は十分に英気を養っておけ」 その言葉を最後に、帝王は玉座から姿を消しその場は散会となるのだった。 「ストローブ、バーベリィ、出られるか」 「いつでも出られるように燃料は満タンです!」 「よし、直ちに発進せよ!残りの者は給油次第出撃だ。弾薬のチェックを怠るな!」 「了解!」 ドランガーの檄が飛ぶ。戦闘態勢に入った機甲軍団は迅速に命令を実行しようとしていた。 一方現場指揮の任を帯びた豪将メガドロンは、出撃メンバーの姿が足りないことに気付く。 「ブルチェックはどうした!?」 「あいつなら元気になった動物たちを山に帰すと言ってどこかに行きました」 「……帝王直々にいただいた褒美か。ならば仕方がない、動物どもを山に帰したらそのまま 周辺地域の探索に移るよう伝えておけ」 動物愛護などという概念はメガドロンには全く理解できなかったが、帝王による裁定に 文句を付ける気など毛頭なかった。機甲軍団は鉄の軍規で縛られているが、その頂点には帝王が君臨する。 上官の命令は絶対、そして帝王の命令はそれ以上に絶対的な物なのだ。 「軍団長、今日の帝王は気合いが入っておいででしたな」 「あのようにお喜びの帝王を見るのは久しぶりだ。それに英気を養っておけという命令。 おそらくは帝王には次の戦い、新たなる一手が見えておられるのだろう」 「次の戦い、ですか……」 戦闘ロボット軍団では豪将ビックウェインと凱聖バルスキーが今後のことを話し合っている。 『伝説の巨人』とまで恐れられる副官は何故かあまり乗り気ではなさそうだったが。 「どういうこっちゃコレ」 帝王が退出し、解散となった謁見の間では未だにモンスター軍団だけが残ってボヤいていた。 「機甲軍団にミソつけてやろうとしたのに、なんで手柄になっとるんじゃあ!」 「軍団長落ち着いて」 「機材使われた分損しとるやないか!納得イカンで!この!この!」 「痛い、痛い!軍団長、八つ当たりはやめてください!」 「うおー!なんでやー!!」 モンスター軍団の行状が醜いのは―――――まあいつもどおりだった。 「さて、この辺りならいいか」 「キュウ~?」 「はは、かわいいやつだなお前は」 犬とフェレットを抱えたブルチェックは、2匹を発見した場所からかなり遠い山林まで来ていた。 「あのあたりはネロス帝国の演習場に近い。お前達はもっと静かなところで暮らすんだ」 要は自分たちと関わり合わないようにというブルチェックなりの心配りである。 そうして犬を地面に下ろし、フェレットを木の枝に乗せたブルチェックは後も振り返らず一心不乱に 駆けていった。そうしないと名残惜しくていつまでもその場に留まってしまいそうだったからだ。 そのフェレットが首に付けていた深紅の宝石が無くなっていることに、ブルチェックは 最後まで気付くことはなかった。そしてフェレットの瞳が高い知性を持った物で、ネロス帝国の中を つぶさに観察していたことにも。 「なんて恐ろしい世界なんだここは……。魔法を使わずにあんな物が、それもあれだけの規模で。 レイジングハートも取られちゃったし、もう僕一人じゃ無理だ。 どうにかして連絡を取らなきゃ……時空管理局に―――」 ユーノ・スクライアのつぶやきを聞いたのは風と雲と太陽だけであった。 明らかになる魔法の存在、そして悪の手に落ちたジュエルシード。 新たなる力を手にしたネロスの野望は留まるところを知らない。 だが、ジュエルシードを求める機甲軍団の前に新たな戦士が姿を現す。 瞬転せよ、フェイト。 魔法帝王リリカルネロス、 次回「翔く魔導師!娘よ、母の願いを!」 こいつはすごいぜ! 提 供 桐原コンツェルン 時空管理局 プロジェクトF.A.T.E. このSSはご覧のスポンサーの提供でお送りしました。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/112.html
「どうだ…モンスター潰されたんなら、お前は戦えねえだろ」 シザースの方へと向き直り、ヴィータが言い放つ。 確かにモンスターが潰されたとなると、ライダーの力は急激に衰える。 シザースもまた例外ではない。ライダーの鎧『グランメイル』の色が灰色へと変化し、ブランク体へと変化していった。 「分解されねえ程度にそこで反省してろ。あたしは帰る」 そう言うと、ヴィータはミラーワールドを出た。 (爺さん達…仇はとったぞ…!) 「ミラーワールドに刑事はいらない…!」 そう言うと、一枚のカードを取り出し、装填した。 『FINALVENT』 先ほど使ったのとは違う、もう一枚のファイナルベント。 メタルゲラスのファイナルベント『ヘビープレッシャー』だ。 そして立ち上がろうとしたシザースの腹を、ヘビープレッシャーで貫いた。 「が…そん…な…私は…こんな…所で――――」 その言葉とともに変身が解け、シザース…いや、須藤がその場に倒れる。 その腹には大穴が開き、そこから大量の血が流れている。もう助からないだろう。 「つまらねえな…」 王蛇はそう言うと、ミラーワールドを去った。 後に残された須藤の体は粒子化を始め、やがて消滅していった… 「あれ?今日はやていないのか?」 現在の時刻は昼過ぎ。先日のシザース戦の疲れからか、もの凄く寝坊したヴィータが聞く。 「ああ、主はやてはシュベルトクロイツの試作型を作るため、アースラに行っている」 はやての杖『シュベルトクロイツ』は幾度かの試作を経ている。そして現在も完成版は出来ていない。 少し前に『試作型バージョン2』が破損し、そのデータをもとにバージョン3の製造に向かっているのだ。 …ちなみに関西人のたしなみとでも言うのか、バージョン2にはハリセンが仕込まれていた。 「ふーん…今回はハリセン仕込むのかな?」 「期待しているのか?」 「まさか」 この後ハリセンがシュベルトクロイツに仕込まれているのをヴィータが見つけ、思わず失笑するのは別の話。 ちなみにバージョン5の時点でようやく「ハリセンを仕込むと空洞ができ、そのせいで強度に問題が出る」と分かり、ハリセンを仕込むのを止めている。 第十八話『真司の冤罪』 OREジャーナルで電話が鳴り響く。大久保がそれを取った。 「はいOREジャーナル」 『OREジャーナル編集長の、大久保大介だな?』 「はいそうですけど…何か?」 突然名指しで呼ばれ、怪訝そうに答える大久保。 『島田奈々子を預かっている』 「はぁ?あんた一体何言って…」 『こう言わなければ分からないか?「島田奈々子を誘拐した」と』 「誘拐?どこに?」 『一度しか言わない。身代金三千万円を用意しろ。それと、身代金は城戸真司に持ってこさせろ。 もし警察に知らせた場合、島田奈々子の命はない』 数時間後、閑散とした山奥の廃墟。 『いいか、真司。間違っても犯人を刺激するな』 「はい、分かりました」 大久保からの電話に、真司が答える。 連絡を受けたときにはかなり気が動転していたようだが、今は皆、幾分落ち着いている。 そして要求された場所へ、要求通り真司が三千万もの現金を持って来た。 「もしもーし?OREジャーナルの城戸ですがー?」 呼びかけても返事は無い。 「要求通り金を持ってきましたー!」 そう言い、件の廃墟へと踏み込む。 「島田さーん?無事ですかー?」 反応が無い。もう一度「島田さーん?」と呼びかけるが、全くもって反応が無い。 とりあえず携帯を取り出し、大久保へと連絡を取る。 『真司か。どうした?』 「はぁ…それが、指定の場所に着いたんですが、応答が無くて…うわ!?」 物陰から何かが飛び出してくる。その何かに真司が吹っ飛ばされた。 何とか立ち上がり、その何かを見る。人間の成人くらいの体格、言葉を話す、さらには鉄パイプを振りかざす。 となると可能性はただ一つ、誘拐の犯人だ。人間か、それとも使い魔かは不明だが。 『おい、真司?おい!真司!!』 吹っ飛ばされた衝撃で、携帯電話を落としてしまう。 その携帯電話から大久保の呼びかける声が響くが、拾えないのだから反応のしようが無い。 「おい!真司!! …ダメだこりゃ。令子、警察を呼べ」 そう言われると同時に、令子が警察に連絡した。 「やめろって、おい!」 鉄パイプを振り回す相手を必死に説得する真司。だが、相手は聞く気が無い。 …と、外が騒がしくなってきた。警察が到着したのだろうか。 音に気付いた犯人が姿を消す。どんな方法を使ったのか分からないが、目の前から忽然と「消えた」のだ。 「あれ…?一体どこに…って、今はそれより島田さんだ!」 犯人が消えたことを疑問に思うも、今は島田の無事を確認するときだと判断し、部屋の隅で気絶している島田に駆け寄った。 「島田さん?しっかりして下さい!」 気絶している島田の目を覚まさせるため、声をかける。 …と、その時、その部屋のドアが破られ、たくさんの人が踏み込んできた。 「警察だ!」 その人影が警察だと分かり、安堵する真司。だが、ここである既視感に捕われる。 (…あれ?これが前の通りだと…まさか!) 「逮捕!!」 やっぱりである。タイムベントの前の通り、真司が逮捕された。 「は?真司が誘拐犯?ある訳ねえだろ」 「全くだ。二重の意味であり得ん」 「もちろん、何かの間違いだろうけど…状況は城戸君にとってかなり不利ね」 一時間後、八神家にて。現在令子が事情を説明している真っ最中だ。 ちなみに、真司とのつながりで八神家の人間とOREジャーナルの人間はちょっとした顔見知りなので、敬語も使っていない。 「ところで、二重の意味って…?」 「ああ、城戸には誘拐などという真似ができるとは思えんからな。 それに、島田が誘拐されたのは昨日の晩なのだろう?その時城戸はこの家にいた。だから不可能だ。 何なら、私が証言台にでも立とうか?」 シグナムがアリバイを証明してくれるという。真司にとっては僥倖といったところか。 「北岡、仕事の依頼がある」「お断りします」 同じ頃、蓮が北岡へと会いに行った。真司を助けるよう、仕事の依頼に来たのだ。ちなみに蓮と北岡は交戦経験があるので、お互い顔見知りだ。 …だが、北岡は依頼内容すら聞かずに拒んだ。 「…何も聞かずにか?」 「アンタからは金の匂いがしない。それに、依頼内容ってあの城戸って奴の弁護だろ?」 「察しがいいな。城戸の弁護はしたくないとでも言うのか?」 「そりゃまあ、せっかく何もしないで敵が減るチャンスなんだしさ」 「やれやれ、やはり人としては最低のようだな」 「かもな。でもアンタには関係無いだろ?」 「あるさ。あんたは俺の仕事をするんだ。金なら何とかする」 「本当か? …ま、いいか。この依頼、請けるよ。 あいつにも聞きたいことがあるし、令子さんからもさっき頼まれたしね」 真司が面会室へと連れてこられる。 「き、北岡さん!?えっ、まさか俺の弁護士って…!!」 「そういう事。令子さんと秋山に感謝しなよ?」 面会室に来た真司は、かなり驚いているようだ。 それもそのはず、多分依頼されても来ないだろうと思っていた北岡が来たのだから。 とにかく席に着き、北岡との対話を始める。 「しかし分からんな。お前じゃないなら、本当の犯人はどこに消えたんだ?」 「それは…」 「なあ、本当はお前がやったんじゃないのか?」「違う!」 北岡に疑われ、思わず声を荒げる真司。 「ま、どっちでもいいさ。お前だろうが違ってようが、必ず無罪にしてやるからさ。で、その前に聞きたいことがあるんだが…」 そう言った北岡の雰囲気が変わる。 「前に浅倉が立て篭もり事件を起こしたことがあったよな?で、その時あいつが俺を呼ぶよう指示する前に、アンタが俺に連絡を取ってきた。 どうやってあいつの正体と狙いを知ったんだ?あいつと連絡を取るか、未来を知りでもしない限り、狙いなんか知れないだろ?」 聞きたいことというのは、真司がなぜ浅倉の正体と狙いを知っていたかだった。 確かに、真司はタイムベントで戻る前を知っている。だから浅倉に関してのことを知っていたのだ。 「…ひょっとして、それを話さないと弁護しない、とか?」 「あー…なるほど、それもいいかもな」 ここまで言われ、真司としても話さないわけにはいかない。 意を決し、北岡に真実を話した。 「なるほどね、オーディン…だっけ?その13人目って。 そいつが時間を戻すカードを持ってて、アンタは戻される前を知ってる。そういう事だろ?」 「ああ。だから浅倉の正体も、狙いも分かったんだ。前のときもそうだったからな」 北岡に全てを話す真司。北岡は正直言って半信半疑だ。 「時間を戻す…ねぇ。随分非常識じゃないか?」 「それを言ったら、ライダーだってかなりの非常識じゃないか」 「…確かにな。じゃ、事件当時の状況を詳しく話してもらえる?」 「えぇ?真司君が警察に捕まった!?」 「そうなの。やってない誘拐の罪で捕まっちゃって…」 同じ頃、大通り。はやてに事情を話しながら、なのは・フェイトが警察署へと向かっている所のようだ。 「その誘拐って、いつ頃起こったん?もし昨日の夜やったんなら、真司君やないって私が証言できる」 「だったら証言してあげて。事件が起こったのって、その昨日の夜らしいから」 話しながらも走る。走る。警察署はもうすぐ近くだ。 …と、フェイトが走り去る何かを見つけ、立ち止まった。それを怪訝に思ったなのはが声をかける。 「フェイトちゃん、どうしたの?」 「…ごめん、二人とも。先に行っててくれる?少し用事ができたから」 そう言うと、フェイトはその何かを追い、どこかへと走り去っていった。 「上手くいきましたよ、プレシア」 先ほど走り去った何か…プレシアの使い魔リニスが報告する。 かつて、プレシアにはリニスという使い魔がいた。だが、そのリニスは契約が果たされ消えている。 ならば今ここにいるリニスは誰だ?答えは簡単だ。プレシアの手によって作られた、二代目のリニスだ。 アリシアを生き返らせるためには、ライダーの戦いに勝つ必要がある。そのために使い魔を使うのは有効な手だ。 そう考えたプレシアは、再び使い魔を作り出したのだ。愛着があったのか、リニスの名をつけ、リニスと同じに作って。 「そう、これで一人は脱落…かしらね?」 「でしょうね。こうすれば餌を与えられませんから、契約違反でいずれモンスターに食べられますから」 どうやら、今回の誘拐事件はプレシアの策だったようだ。 どうやって真司のことを調べたのかは不明だが、とにかく真司の関係者を誘拐し、その罪をなすり付けて逮捕させたのだ。 急に消えたのも、本来の姿である山猫形態に戻っただけである。あまりに急だったため、目の前から消えたように見えたのだ。 「そういう事だったんだ…」 突然の声に振り向く両名。そこにフェイトがいた。 「フェイト…立ち聞きとは、趣味が悪いわね」 「母さん…そこまで堕ちたとは思いたく無かったよ」 一言二言ほど言葉を交わすフェイトとプレシア。 すでに両者の周りには、雷が帯電している。お互い戦う気だ。 「やれやれ、俺は必要無かったみたいだな」 はやての証言で、真司の無実が判明。さらにシグナムの証言がそれを裏付け、出所と相成った。 そのまま出所し、今は皆で帰路についている。 「はは…なんか、すいません。お仕事取ったみたいで…」 「ああ、いいっていいって。多分もう一仕事あると思うし」 「もう一仕事って…何かあるんですか?」 「知ってるか?こういう時ってさ…警察を告訴すれば賠償金と慰謝料取れるんだ」 その言葉に、北岡以外の全員が驚く。真司もだ。 「えっ!?そうなんですか?」 「お前な…ジャーナリストだろ?その位知ってろよ」 「とにかく、警察に謝罪させることが出来るんやろ?それなら…く、くくく…」 はやてが突如笑い出す。凶悪なオーラを発しながら。 「私の家族に無実の罪着せた報い、しっかり受けて貰わなあかんな…」 かなり強力なオーラが放出されている。心なしか、「ゴゴゴゴゴ…」といった感じの効果音と、例の金属音がハーモニーを奏でているように聞こえる。 …って、え?例の金属音? 「あーモンスターだ。早く何とかしに行かないとー」 「じゃ、じゃあ俺も行くよ」 そう言うと、真司と北岡がモンスター退治に向かった。全力疾走で。 「…逃げたな」「ああ…」「私も逃げたいよ…」 いや、あんたらも行けよ。システムを使えばミラーワールドにも入れるだろう。 「あれ?真司君と北岡さん、どこ行ったん?」 「あいつらなら、モンスター退治に行ったぞ」 「そうなん?ほんなら、私も行ってくるわ」 そう言って、はやてもモンスター退治へと向かった。 「…今のうちにモンスターの冥福でも祈る?」 「今回ばかりはお前に賛成だ」 この後、モンスターがはやてからイジメじみた攻撃を受けた挙句に、オーバーキル同然の死に方をしたのだが、それはまた別の話。 「闇に沈め!」 モンスターに無数の短剣が刺さる。ブラッディダガーの集中砲火を浴びせたのだ。 「あの子供、怖いな…」「いつもはああじゃないんですけどね…」 モンスターにとっての地獄は、まだまだこれからである。 「くっ、どこに消えたの!?」 こちらはフェイトVSプレシア。現在戦闘の真っ最中。 プレシアがベルデへと変身し、クリアーベントで透明化。撹乱しながらフォトンバレットやバイオワインダーで攻撃しているのである。 「フフ…どこにいるか、分かるかしら?フェイト…」 分からないということが分かっていて聞くベルデ。多少意地悪に思える。 「どこにいるか分からないなら…! サンダーブレイド!」 『Thunder Blade.』 遥か上空へと飛翔するフェイト。そして雷の剣を降らせて爆発させる攻撃魔法『サンダーブレイド』を放った。 雷の剣が地面へと突き刺さる。そして… 「ブレイク!」 爆発。そして放電。強烈な電流が暴れだす。 これ程の電流、しかもかなりの広範囲だ。いくらなんでも逃れることは出来ないだろう。 フェイトやリニスもそう思っていた。だが… 「終わりかしら?」 その声、そしてその後に見たもので、フェイトは自分の目を疑った。 バリアのような防御魔法を張り、完全に防ぎきっていたのだ。 「そ、そんな…」 「それじゃあ、そろそろ倒させて貰うわ」 言うが早いか、フェイトに杖を向けるベルデ。 刹那、フェイトのいた箇所が爆発する。特大のフォトンバーストがフェイトを捉えたのである。 ダメージに耐えられず、墜落していくフェイト。それをリニスが受け止めた。 「リニス、その子は死んでいるわね?」 「…はい」 「そう…なら、その死体を片付けてきなさい」 「フェイトちゃんがまだ帰ってない?それって本当なの?」 『ああ。全く、どこをほっつき歩いているんだ?もう夕飯時だというのに…』 その晩、なのはにクロノからの連絡が入った。 今日の昼、なのは達と別行動を取ったフェイトがまだ戻ってきていないというのだ。 「フェイトちゃん、どうしたんだろう…」 『さあな。とにかく、見つかったら連絡を「なのは!大変!フェイトちゃんが…!」 突如、高町桃子の声が響く。聞こえた内容からすると、フェイトが大変なことになっているようだ。 クロノとの電話は繋がったまま、急いで下に降りるなのは。 そこで見たのは、重傷を負い、高町美由希からの手当てを受けているフェイトの姿だった。 幸い、まだ生きてはいるようだが…このまま放置すれば死にかねない。 「クロノ君!フェイトちゃんが…!急いで医療班をうちに回して!」 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1753.html
第0話 突然の出会い 「天王路、お前をここで俺たちが倒す。」 「フフフ、君たちにこの私に倒せるかな?」 「「変身」」 「・・・変身・・・」 今から一万年前アンデットという存在が現れ、人々を襲い始めた。 そのアンデット達が他の種よりより優れた存在に進化したいという思いで アンデット同士の戦い、バトルファイトが行われた。統制者という者が、 戦闘不能のアンデットはモノリスの力によりカードに封印するという。 その戦いで勝ち残ったのはヒトの始祖たる不死生物・ヒューマンアンデッド が優勝した。だが、ジョーカーによって封印され、ジョーカーは人という 運命と戦うことにそして、現代になりアンデット達が何者かにより大半の アンデットが開放されてしまった。そして、天王路がその首謀者である。 「なぜ、アンデットを開放したんだ。」 「それはだね、私は、万能の力がほしいのだよ」 「そんなことでアンデットを開放したって言うのかよ」 「そうだ。そして、バトルファイトで勝ち残り、新たな世界を作りあげよう」 「なるほど・・・今の世界にいる人間を滅ぼしてまでそんな世界を作りたいのか?」 「当たり前だ、今の人は破滅の道に向かっている。だから、新しい世界をつくるんだよ。」 「許さない。俺はお前を許さない。」「エヴォリューションキング」 「ああ、こいつは今の世界にはいらない存在だ」 「エヴォリューション」 「始、橘さん、睦月、一斉に攻撃を仕掛けるぞ。」 「「ああ」」「わかりました。」 「バレット、ラビット、ファイアー」 「ラッシュ、ブリザード、ポイズン」 「ワイルド」 「?10、J、Q、K、A」 「バーニングショット」 「ブリザードベノム」 「ロイヤルストレートフラッシュ」 「はあああああああ」 そして、ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルは謎の光によって消えた。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/207.html
プロローグ 『ある事件の結末』 全てはここから始まる。 「……どうして……なんでなの……なんで殺したのッ!うあああああッッ!!」 泣き崩れるなのは。 膝を突き、涙を流し、嗚咽は聞いた者達の胸を無念の痛みで切り裂く。 街を覆いつくした巨大な魔獣は、中枢制御の依り代とされた少女の、あっけない死によって消滅が始まっていた。 初めに消滅したのは魔獣が生み出した数多くの分身体と魔獣が召喚した無数の魔獣達。 そして千を超える攻撃手と続き住宅地の上空一杯に広がった胴体も消えていった。 まるで朝霞のごとく。 分解消滅は急速で、やがてなのはとシンの居る胴体中央部も霧のように掻き消えていった。 先刻までの激戦が嘘のように魔獣は消えた。 そして残るのは……シン・ガクが“殺した”少女の姿が現れる……。 なのはその姿を認めるや、涙を拭わず直ちに少女の元へ駆け寄る。 一塁の望みで応急蘇生行おうとしたが、無理だった。 完全に死んでいた。 シン・ガクの、文字通り命を削った必殺の一撃は全てを撃ち貫く。 依り代となった哀れで幼い少女の心臓のみ、完全に穿いたのだ。 なのはすでに事切れた少女を抱きしめ、あらん限りの声で泣き叫んだ。 初めて人の死。それもまだ幼い少女の死を目の前にし、哀しみ啼いた。 「あああああッ!ああああああああああッッ!!」 少女の亡骸の血で、なのはの純白のバリアジャケットが紅く染まる。 「どうしてなの…………この子は生きてたんだよ……助けられたかもしんないんだよ?……助けを求めてたんだよ!!なのに……なんで、なんで殺したのッッ!!ああああああ……」 近くに来た者に、少女の悲痛の叫びに誰も答えることができない。 なのはも誰に向って叫んだのか判らない。 魔獣と融合を確認し『最終決定』を下した時空管理局本部か? それとも彼女に手を下したシンにか? シンは、無限増殖する魔獣胴体上で、襲い掛かる攻撃手、召喚獣、分裂体全ての攻撃の全てを凄まじき精神力で耐え、少女救出のために危険な直接接触によるスキャンで胴体内の詳細なデータを送信し続けた。 シン・ガクは少女にデバイスを向けた同じ場所に居つづけ、なのはの方に顔を向けず、その叫びを聞いていた。 その表情は、眉を顰め歯を食い縛った、苦痛の顔だった。 普段の彼なら絶対に見せない顔だ。 おそらくどんな深手を負っていても、少女の命が救えていれば「どうということもなく」とにべもなく言い立ち去るだけだったろう。 彼は、己が何をしたのか認識していた。それ故動けずにいたのだ。 如何なる攻撃も負傷も歩める理由としないのが彼の理念であったが、動かなかった。 衛生班が到着するまで傷口から血を流しつつ立ち続けた。すでに足元には血溜まりができていた。 なのはは、やがて泣き止んだと思ったら、呆然とした表情で少女を抱き上げ、うわ言のように言葉を繰り返しながら歩き出した。 「……謝りに行かなくちゃ……。この子のお母さんとお父さんに謝りに行かなくちゃ……」 衛生班と共に来たシャマルがなのはのもとに駆け寄り、彼女を制止する。 「ダメよ、なのはちゃん!落ち着いて!その子を降ろしてあげて!誰か!誰か!鎮静剤を誰か、早く!!」 古代遺物管理部機動一課所属の医療班が手際よく錯乱する少女に鎮静剤を打った後、すみやかに遺体を引き剥がしてボディー・バックに入れ運び出す。 シャマルは不憫に思った。おそらくあの子は検死で徹底的に調べられるだろう。 なのはがそれを聞いたら、きっとまた泣くだろう。 リハビリが終って現場復帰してから一年も経っていないのにこの悲惨な結末……。 ひょっとしたら今度こそなのはは駄目になるのかもしれない。 タンカに乗せられたなのはがヘリに乗せられ設備の整った病院へ行くのをを見送りつつ、シャマルは思った。 だが思い悩んでも仕方がない。 この後の実況見分その他を速やかに行わなければならないことにシャマルは頭を痛めた。 重傷を負わせられた一課第三突入小隊の前衛要因が一課のヘリへ、全く何事もなかったように歩いて行くのを見てシャマルは自分の認識を再確認した。 やはり機動一課は凶犬の集まりなのだと。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nendoroido/pages/90.html
魔法少女リリカルなのは THE MOVIE 1st(海賊版) 参考画像
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/244.html
ジャングルはいつもハレのちグゥ リリカル 6課編 クロス元:ジャングルはいつもハレのちグゥ 第一話 第二話 第三話 第四話 TOPページへ このページの先頭へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3499.html
* 「あと一枚、か」 初老の男は、そう呟いた。 彼を照らすのは広大な部屋全体を浮かび上がらせるほどの大きな半球状の電灯。オレンジがかった光の中で、老人は一枚の画面を注視していた。 映し出された画面からは一陣の光とそれを見送る若い青年の姿が見える。彼はそれを、じっと見つめていた。 彼が動く。コンソールに置かれた手を流れるように滑らせ、画面を切り替える。表示されたのは、六課が戦う光景。スバルが、ティアナが、エリオが、キャロが、シグナムが、ヴィータが……そして、なのはが。 「……ジェイル」 莫大な数のガジェットと強力な戦闘機人に攻め込まれた六課の魔導師は、しかし的確に迎撃を行っていく。端から見ても分かるほど並みの実力ではない。奇襲にも関わらず、一糸の乱れすらなかった。 特に、魔力を無力化するAMFという防壁を持つガジェットの相手に手慣れているかのような手際の良さだった。 その遠方に、全てを睥睨する一人の男がいた。紫の髪と白衣を棚引かせ、不吉な笑みを張り付けた災厄の科学者にして、無限の欲望を持つ男。 緑色のベルトを腰に付けた男は、魔法陣を展開して何処かへと去っていく。 「今回は確かに私の負けだ。だが、アンデッドを暴走させた程度で剣崎君を止められると思うなよ」 初老の男が画面の向こうに映る彼を眺めながら白髪混じりの髪を撫でる。その紫の髪を、引き裂くように、忌々しげに。 彼は射殺すような視線を、ずっとジェイル・スカリエッティに送り続けた。 リリカル×ライダー 第十九話『天馬』 「サンダーレイジ!」 小柄な体のエリオが自身の身の丈を越える槍――ストラーダを地面に突き立てる。 一発のカートリッジが射出されるのと同時に魔力が電撃に変換され、それが雷の洪水となって刺さった地面を伝播し、ガジェットを一掃する。 「おりゃあああぁぁぁぁぁ!」 それに続く形で、エリオの頭上すれすれを通過して伸びる青色の魔力で編まれた道――ウイングロードに乗ったスバルが殴り込みをかける。 マッハキャリバーによって加速されたスバルが、巨大な球状のガジェットⅢ型に拳を構える。ハイスピードで迫るスバルの体が一瞬でガジェットの目の前に滑り込んだ。 「振動拳ッ!」 スバルの目が金色に光り、腕のリボルバーナックルに付いているナックルスピナーが高速回転を開始する。 その回転による運動エネルギーが魔力的に増幅され、拳に集約する……! 「はあああァァァァァ!」 『Protection AMF』 それに対抗するように、ガジェットも上部から排莢を行い、強大な魔力でバリアを張り巡らす。 そして両者が衝突した。 「おああぁぁぁぁぁ! 一撃、必倒!」 魔力を無力化し、更に強固なバリアとしても機能するガジェットの障壁により振動拳の威力は削がれていく。だが、スバルはそれで決して止まりはしない。 強引に伸ばした腕から更に排莢が行われたなことで破壊力が増し、ついにバリアを打ち砕く。 そして球場のボディに突き刺さった拳の振動が一瞬で構造材を脆くさせ、ガジェットⅢ型は呆気なく崩れ落ちていった。 「スバル、次行くわよ!」 「オッケェ!」 そこにスバルを攻撃しようとするガジェットを迎撃していたティアナが合流する。敵の数は、半数程度にまで減らされていた。それでもまだ相当な数が蠢いているのだが。 だからこそ、ティアナはここで手を休めるつもりはなかった。 「エリオはキャロと合流して空をお願い!」 「はい!」 「私達は海上から上陸してくるガジェットをやるわよ」 「よーし。ティア、行くよ!」 その上空を空舞う飛竜フリードリヒが横切る。 無数に群がるガジェットは、しかしその優美な白竜の炎に次々と落とされ、ガジェットの攻撃は逆にフリードを操るキャロの魔法によって全て塞がれる。 三人の少女と一人の少年で編成されたフォワードチームは、確かにストライカーズと呼ぶに相応しい活躍をしていた。 一方で―――― 「キャハハハハ!」 菱形のモノアイに赤いアーマーを纏う女――クアットロが哄笑する。ボウガンという装備から見ても非常に軽装なのに対し、その力は想像を遙かに越えていた。 あのなのはが、血を流す左腕を庇いながら追い詰められる羽目になっていたのだから。 「くっ……」 「自慢の砲撃も、当たらなきゃダメよねぇ?」 なのはが不意打ち気味にアクセルシューターを放つ。桜色の光弾は速射性と追尾能力に定評のある命中率の高い魔法だ。 だが、当たらない。 魔法弾がクアットロの鎧を捉えたときには既にその姿は消えており、いつの間にかなのはの後ろに回り込んでいた。 「シルバー……カーテン、かな」 瞬間的に後ろに張ったプロテクションが、クアットロの魔弾を弾く。 「あらぁ、エースオブエース様に私のISを覚えて頂けるなんて、光栄だわぁ」 クスクスと嗤うクアットロを、なのはが忌々しげに睨み付ける。 ISシルバーカーテン。 クアットロが持つ戦闘機人としての固有技能で、高い幻惑能力を持つ。姿を消す、架空の物体を投影するといった撹乱に最適の技能だ。 本来は後方支援系の技能であり、故にクアットロは前線で戦うタイプではない。しかし新たに手にした力、新世代ライダーシステムがそれを可能にしていた。 『Master,please withdraw!』 「あら、逃げ出しますの? なら"あの子"を血祭りに上げちゃいましょうかねぇ」 安い挑発を嫌らしく甲高い声で発するクアットロ。その血塗られたような装甲が不気味に黒光りする。 普段のなのはなら挑発に乗るなんて考えられない。しかし、今のなのはにとってそれは禁句だった。 「エクセリオォォォン、バスタァァァァァッ!」 突撃槍のような形状のエクシードモードに変形したレイジングハートを振りかざすなのは。愛杖からの制止を聞きもせず強引にコッキングレバーを引いてカートリッジをロードする。 そしてその鋭い切っ先から鋭い砲撃が迸る。 ディバインバスターより鋭い射線は微妙に曲げることができ、クアットロの動きに対応して放つことができる。故に命中率が高く、またカートリッジの使用により威力も高い。 「――あはははっ! 当たりませんわよぉ?」 ……にも関わらず、彼女を捉えられない。 いつの間にか隣に現れたクアットロにレイジングハートを向けようとするが、その前にボウガンを向けられる。そこに、カードがスラッシュされた。 『Excellion Baster』 『Master! ――Protection EX』 ボウガンから紅い鏃のような鋭い砲撃、なのはが今撃った砲撃と同じ魔法が放たれる。そう、なのはの目の前で。 「く――あっ……」 だが寸前でレイジングハートのフォローによって発動した防御魔法がなのはを守った。しかし、衝撃までは殺せない。バリアと共に、なのはが吹き飛ばされる。 落ちていく。エース・オブ・エースの撃墜。コンクリートの床とのキスまで後、数秒。 『Master!』 「なのはぁぁぁぁぁ!」 だが、その寸前で彼女は救われた。一筋の稲妻が、彼女に駆け抜けたことによって。 その光から輝くような金髪と、温かな笑みが浮かび上がる。それは、フェイトの笑顔だった。 ・・・ 「――こんな策しか用意出来んのが悔しいなぁ」 爆炎と騒音から離れてたった一人で佇むはやてが、小さくため息を付いた。 ここは最終防衛ラインと言うべき六課隊舎前。皆がランニングなどを行う前庭にて、はやてはバリアジャケットを纏って宙に浮いていた。 ちなみに、ここにいるのは彼女だけで、他には誰もいない。ただし、独り言を呟いているわけでもなかった。 『本当は、はやてちゃんも行きたかったんですよね~』 「仕方ないやろー、ここを離れる訳にはいかんし」 はやてとユニゾンしているリィンの言葉に苦笑する。そう、はやてだって十年来の友人の元に馳せ参じたかったのだ。 しかし彼女にはそれが出来ない。後方支援タイプであることと部隊長であることが、その理由。そう、彼女の背負ってる責任が、重すぎるからだ。 それでも、彼女なりに出来ることはやったのだ。責めることは出来ないだろう。 「そろそろカズマ君が帰ってくる頃合いやないかなぁ――」 「――くくくっ、そうかぁ。彼はまだ帰ってきていないのか」 そう、それは唐突な出来事だった。 「! スカリエッティ!?」 「残念だな、今から彼と遊べると思ったのだがね」 そう、はやての目の前に立つ男、その名はジェイル・スカリエッティ。 まさに唐突としか思えないタイミングで、一瞬前まで無人だった前庭に白衣と歪なバックルをしたベルトを巻いたスカリエッティは存在していた。 「……どうやって現れたかは知らへんけど、ここは通さへんで」 『ですですーっ!』 はやての足元に白い三角形の魔法陣が出現する。陣が回転を開始すると同時に白い光にはやての体が包まれていき、魔力が高まっていく。 それを見たスカリエッティは、薄く笑みを浮かべたまま、バックルのカバーに手をかけた。 「くっく……変身」 『Open Up』 カバーをスライドさせた瞬間に魔力が彼の体を包み込み、一瞬で全く別の姿へと変化する。 黄金の縁取りが成された緑色の装甲と無機質な複眼。王冠を模したようなマスク。右手に握られる短いスピア。 それが伸長して瞬時に錫杖へと変化する。 「八神はやて、君は私を楽しませられるかな?」 「私かて何時までも対人戦が苦手なわけやないで……!」 『はやてちゃんと私なら貴方くらいケチョンケチョンにしてやるんですからね!』 はやてが凛々しく、リィンが可愛らしく台詞を決める。その様に仮面の下で笑みを深めるスカリエッティを尻目に、二人の内心は焦りがにじみ出ていた。 理由は簡単。忙しすぎるはやてに訓練をする暇など、あるはずがなかったからだ。 「(ど、どないしよう……これで退けんくなったやないか!)」 『(ででででも、これ以上下がるなんて最初から無理です~!)』 そう、ここは最終防衛ラインなのだから。 はやては十字形を模した形状の杖型デバイス、シュベルトクロイツの切っ先を真っ直ぐスカリエッティに向ける。その切っ先は、小刻みに揺らしながら。 スカリエッティが動く。その手にカードを握り、錫杖の石突きにあるスラッシュリーダーへと運びながら。 「仄白き雪の王、銀の翼を以て眼下の者を白銀で穿て。来よ、氷結の一撃――クーゲル・デス・アイゼス!」 『――Blizzard』 詠唱を終えたはやて。シュベルトクロイツの周囲に三つの青白いキューブが浮かび上がる。程無くして魔力を湛えたキューブが回転を始める。 そしてはやてが十字杖を振り下ろす。 キューブは回転を最高潮に高めたまま、まるで巨大な氷の弾丸のように撃ち出される。はやての強大な魔力によるそれはリィンの制御によって、正確にスカリエッティを狙い撃つ。 対するスカリエッティはカードをスラッシュして解放された吹雪のエネルギーを、錫杖をはやてに向けることで放出する。 二つの凍てつく刃が今、激突する――! はやての氷弾は鋭さと質量を持ってスカリエッティのブリザードに立ち向かう。スカリエッティ自身の魔力によって具現化した吹雪だが、一気にはやてのそれに押されていく。 「私と撃ち合いやなんて、良い度胸やっ!」 氷と氷がぶつかり合う甲高い音。 一瞬にして、はやての一撃がスカリエッティの吹雪を吹き飛ばした! ……スカリエッティを見失う代償を払って。 『Absorb Queen』 「――ッ!?」 真後ろから聞こえた電子音に慌てて振り向くはやて。そこには左手に装着したラウズアブゾーバーにカードを持っていく、スカリエッティの姿があった。 スカリエッティが仮面の下でニヤリと笑う。 『Fusion Jack』 そして彼は変身した。 「フォームチェンジ……」 猪の頭に似た巨大な牙を持つ肩の装甲と、黄金の刃を先端に装着した錫杖。そして胸部には黄金の猪のレリーフが刻まれる。レンゲル・ジャックフォーム。 はやては唖然としながらも高度を取る。単純に距離を取るだけではダメだと、そう考えたかのように。 リィンも内心で、固唾を飲んでいた。 そしてスカリエッティが二枚のカードを引き抜いたのを合図に、はやてもまた再び動き出した。 「ブラッディダガー!」 『Screw,Rush――Revolver Rush』 はやての周囲にミッド式魔法陣が展開され、血塗られたような紅い短剣が無数に出現する。それらが杖の一振りで射出され、スカリエッティに狙いを定める。 しかしスカリエッティの発動したカードの魔法により回転力と刺突力を与えられた錫杖が、それらを叩き落とすだけでなく、更にはやてのバリアジャケットにも直撃する。 「――あぐっ!?」 吹き飛ばされたはやての口から血が一滴流れる。直撃した部分のバリアジャケットは捻れるように千切れており、内出血の痣が付いた腹が露出している。 スカリエッティはつまらなそうに錫杖を振り回し、その腹に切っ先を向ける。 「アアアアアァァァァァ!」 それを遮るタイミングで。 空から飛来したカズマが天馬を駆ってスカリエッティに突撃していった。 ・・・ 「良かった……間に合って」 「フェイト、ちゃん……」 目元に涙を浮かべながらフェイトはなのはを抱き締める。それは温もりを分け与えようとする母親のように。 なのはは瞼を僅かに開いて、温もりの在りかを見つめる。その瞳から、一滴の涙が流れた。 「ごめん、ね……。わたし、足――引っ張っちゃった」 「そんなことない!」 顔を背けようとするなのはを強く抱き締めるフェイト。 一方のクアットロは邪魔が入ったことに苛立ちを隠そうともせず、ボウガンの銃口を振り上げる。 それにフェイトも即座に反応した。 「私の楽しみを邪魔しないでくださるぅ!?」 「させない!」 『Defencer』 クアットロが引き金を引くと同時に数十の弾丸が発射される。それらは何の捻りもない魔力弾だが、威力と弾速、そして数があれば意味合いも異なる。 フェイトはなのはを左手で抱え、右手に持ったバルディッシュでディフェンサーによる防御を行う。だが彼女は高速型、防御は決して得意ではない。 ディフェンサーが砕ける一瞬前に、フェイトはソニックムーブを起動して瞬間的にその場を離脱した。 「わたしは、皆の足を引っ張りたくない」 「なのは……」 なのはがフェイトから身を離す。 フェイトが隠れるように降り立った空間シミュレーターの廃ビルの壁を背に、なのはは震えを止めるかのように自らを抱き締めた。 「皆だって守る人を抱えているんだから、わたしの我が儘には付き合わせられない」 「それは違うよ」 辺りに無数の赤い影が現れる。シルバーカーテンは透明になることも、逆に分身を作ることも出来るのだ。 さらに乱立する廃ビル全てを破壊するかのような爆撃が遠雷のように轟き、フェイトとなのはの足下にまで振動を伝達する。クアットロの苛立ちを象徴するように。 「私は、私が守りたいと思うから守るだけだよ。私がなのはとなのはにとって大切な人達を守りたいと思うから守るだけ」 「フェイト、ちゃん……」 射撃音が徐々にフェイトとなのはに迫る。無差別な破壊に見える攻撃だが、実際は的確に二人を追い詰めるように攻撃を繰り返していた。 だが二人は微動だにしない。そもそも、今だけはどちらもそんなことは気にも止めていなかった。 「見損なっちゃ嫌だよ。私となのはは、友達だもの」 フェイトがバリアジャケットの下から何かを取り出す。身を縮こまらせたなのはの元に歩み寄り、その手を開いた。 それは、ピンク色のリボンだった。 「あ……ッ!」 「これをもらって、初めて友達が出来て――嬉しかった。だから私は、頼まれなくても友達を守ろうと誓った。そうしたかったから」 十年も前、二人が敵から友達に変わった日からフェイトが大切にしてきたなのはのリボンは、痛みこそあるものの綺麗な色をしていた。 そしてなのはもまた懐から取り出す。それは、かつてフェイトが付けていた黒いリボン。 「……そうだよね。わたしは、知らず知らずの内に、友達すら信じられなくなってたのかもしれない。ばかだ。わたし、ばかだよ……」 なのはの涙ごとフェイトは抱き止める。間違えることはある、勘違いもある。すれ違うこともある。人間なら、仕方ない。 それでも何度でも、間違えればまたやり直せる。それが、友達なのだから。 「あらぁ、そこにいましたのぉ? 二人纏めて地獄に送ってやりますわッ!」 二人を覆っていたコンクリートが砕け散り、そこから赤色の鎧を纏う悪鬼が姿を表す。 だが、もう怖くはない。 圧倒的な強さを持ったクアットロだが、しかしもはや敵ではなかった。 『Master. Are you ready?』 「ばっちりだよ。さぁ、いこうか、レイジングハート」 『All ready. Drive Ignition.』 なのはとレイジングハートにとって最高のパートナーが、側にいるのだから。 「いくよ、バルディッシュ」 『Yes,Sir.』 管理局のエースオブエースと六課最速の魔導師、二人による演舞が今――始まる。 ・・・ 空に桜色の光痕と金色の稲妻が交差する。蒼い空を錯綜する光の舞は美しく、そして魅力的だ。そこに混じる紅という不純物だけが鬱陶しいと感じるほどに。 それを発する二人の少女もまた、戦いの中にあって尚、美しい。それは同性が見てもそう思うほどに。 その輝きを見つめるはやての目には、少なくともそう写っていた。 「……やっぱ、あの二人は特別なんやなぁ」 「ぐ――が、はっ……」 『はやてちゃーん、遠くを見てる場合じゃないですよ~!』 そんなはやてを背景に、二人の仮面を付けた戦士が対峙していた。ただし片方は錫杖にすがりついて腹を庇いながら、もう一人は悠々とバイクに跨がりながら。 そのバイクには、鋼の翼が生えていた。 「スカリエッティ――ここで決着を付ける!」 「バ、カな……。カズマ、君に、こ……んな、隠し玉、が……」 カズマが跨がるのは愛車のブルースペイダー。 しかしジャックフォームのカズマが乗ったと同時に、カズマの背中で雄々しく羽ばたくオリハルコンウィングに似た魔力で編まれた鋼翼が形成されていた。 ブルースペイダーそのものは特に変化していないが、シートカウルから生えた両翼によって姿形は全くの別物となっている。その姿は神話に登場する―― 「――ペガサス、みたいやな」 ぽつりと、はやての口からそんな言葉が漏れ出る。確かに、今のブルースペイダーを指すのにこれ以上相応しい言葉はない。はやての視線は、釘付けになっていた。 そんなはやてと同じく、ユニゾン中のリィンもまた夢中になっていた。 『確かカズマさんのバイクはブルースペイダーって言うんですよね?』 「ブルースペイダーペガサス。カッコええやん!」 救援の登場で一気に外野と化したはやてとリィンが好き勝手語る一方で、カズマは追撃のために二枚のカードを用意していた。 何とか立ち上がるスカリエッティ――レンゲルを叩き潰すべく。 一方のスカリエッティは、レンゲル・ジャックフォームの固い装甲をも引き裂く刃のような翼にやられた傷を庇い、動けずにいた。 『――THUNDER,MACH』 二枚のカードをバイクのカードリーダーにスラッシュするカズマ。 ガォンとアクセルを捻ることでアトミックブラストエンジンが咆哮を上げる。エンジンの回転数はメーターを振り切るほどに回り、その熱は周りに蜃気楼を起こさせるほど。 覚醒した荒々しき天馬が、無限の欲望を喰い尽くす――! 『――LIGHTNING STORM』 「おあああああァァァァァ!」 二つのカードによるコンボ技。それによるアンデッドの力がブルースペイダーペガサスに宿る。 稲妻をカウルに帯びさせ、ブルースペイダーペガサスが舞い上がる。そして疾風の如き加速を持って、天馬は悪を叩かんと突撃していった。 ・・・ 新たな力を得たカズマと六課の活躍によってスカリエッティの攻撃は失敗に終わった。 はやてはガジェットの航跡からスカリエッティの隠れ家を探し出し、反攻作戦を画策する。その一方で、王は自らの役割を自覚し始めていた――。 次回『反撃』 Revive Brave Heart 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/114.html
BATTLE OF ACES 設定解説